1990年代後半に日本の格闘界でも一世を風靡した「グレイシー柔術」。 「ヴァーレ・トゥード」(ポルトガル語で「何でもあり」の意)というルールで行われた異種格闘戦での、ブラジル出身のヒクソン・グレイシーらグレイシー兄弟の活躍によって、その名は強く印象付けられた。「柔術」という言葉の古めかしい響きと、スポーツ化した現代の柔道と大きく異なった実戦的な格闘スタイル。講道館という同じルーツを持つ柔術が、ブラジルという別天地で全く異なる進化を遂げていたことは格闘ファンに大きな驚きを与えた。 その起源を辿っていくと、「コンデ・コマ」(コマ伯爵)の愛称で呼ばれた前田光世という一人の日系移民に行き当たることは、熱心な格闘ファン以外にはあまり知られていない。しかも単にグレイシー柔術の起源というだけには全く収まりきらないほどに、前田の人生のスケールは大きい。 前田は1878年(明治11)に青森県中津軽郡船沢村の