若さゆえに描きえた、あのやっかいな時代『凶悪』『彼女がその名を知らない鳥たち』『孤狼の血』と充実した娯楽作を送り出し続ける白石和彌監督は、その骨太な演出や若松プロでの修行経験ゆえについ忘れてしまうのだが、まだ40代も前半の世代である。そんな1970年代も半ばに生まれた白石監督が本作で描いた「生まれる前のオトナたちの世界(社会)」は、しかし当時を生きた元若者たちが観ても、ひじょうに好感と納得をもって受け止められるものではなかろうか。それはちょうど白石監督と一歳違いの若き冨永昌敬監督が、はるか先行世代の末井昭の奔放な文化的叛逆ぶりを『素敵なダイナマイトスキャンダル』で描いて出色だったのと似ている。 その理由については『素敵なダイナマイトスキャンダル』の評でもふれたのだが、若松孝二や末井昭といったカウンター・カルチャーの星たちに至近で伴走した人々はもとより、その影響にまきこまれた一般の体験者でさ