ピーター・シンガー 『動物の解放』『実践の倫理』 担当:大木竜児 《 概 要 》 「動物は何故解放されなければならないのか?」という問いを省みると、純粋に動物愛護心を助長するようにもとれるが、現状の不平等を自覚するための人間自身の反省を促すことが暗に含まれている。動物実験の残酷な様相や、食肉用の家畜に対する不当な扱いを描きつつも、ピーター・シンガーの論理展開は至って冷静で、前者のような感情に基づく立場は極力抑制されている。そのことは、動物を愛するという理由からよりも、動物には人間と同じく苦痛や快楽を感じる能力を持ち、だから考慮に入れられるべき「利益」があるからだという根拠によって、彼の主旨が支えらているところに見ることができるだろう(1)。つまり、何かしら客観的な他者評価基準として「利益」という概念が用いられているのだ。 苦痛/快楽の感覚を持つものは、苦痛を軽減したり快楽を増大させるという