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ブックマーク / yoghurt.hatenadiary.com (7)

  • 祖父の長い長い旅 - 未来の蛮族

    それにしても、人類はなんと恐ろしいものを思いついてしまったのだろう。 その建物を前に、僕は人類の業の深さにおののいていた。 国会図書館。ここには、この国で発行されたほとんどの出版物が収まられているという。 インターネットは確かに偉大な技術だし、はじめて納豆をべた人間の勇気は永遠に称えられるべきだと思うけれど、人類史上最もヤバい思いつきをひとつだけあげるとするなら、やはりそれは「文字」にほかならないだろう。約五千年前に発明されたというこのテクノロジーは、はるか彼方の人間に声を届けることができるだけではなく、死者の声すら地上に留めおくことができるのだ。 時間と空間を超越し、生と死を弄ぶ。まさしく、神をも恐れぬ所業。人類の狂気の生み出した産物である。 僕は想像する。暗闇の中で、何百万もの生者と死者が、暗闇の中でじっと聴き手を待ちつづけている姿を。 何とも恐ろしい話だが、さりとて怖がってばかりも

    祖父の長い長い旅 - 未来の蛮族
  • 祖父の長い旅 - 未来の蛮族

    土曜の夜は、祖父母の家で夕を過ごすことになっていた。 波の上という街に住む祖父母の家には、泊大橋という橋をこえていかなければならない。橋から見下ろす港にはたくさんの貨物船が止まっていて、なぜかそれらの甲板には決まって大きな犬がいた。 どうすれば船のうえで犬を飼うことができるのだろう? 子供ながらにそう思っていたし、それは今でも解くことのできない疑問だ。もしかすると、あれは夢でみた風景だったのかもしれない。 祖母がくれるお菓子はいつも亀田製菓の「雪の宿」だったこと、テレビにはクイズダービーが映しだされていたこと、祖父母と同居するS叔父が僕たち兄弟に折り紙を教えてくれたこと、幼い時分の記憶はどれも断片的で、はっきりせず、たよりない。 なかでも祖父の記憶はおぼろげだ。 僕がかろうじて覚えているのは、部屋の片隅で、しずかに泡盛を飲む祖父の姿だ。ほんとうに水のように酒を飲む人で、それで乱れるという

    祖父の長い旅 - 未来の蛮族
  • エヴァンゲリオン殺人事件 - 未来の蛮族

    この度の新しい映画を鑑賞して、今更のように思い知らされたのは、エヴァンゲリオンはほんとうにひどいな、救いようがないな、ということだった。 我が眼を疑うほどダサい戦艦が空を飛び、船員たちが「ヨーソロー!」と唱和する。いつからエヴァワンピースになってしまったのか!? そう呟いてみても、むなしいだけだ。何もかもが狂ってしまった世界で、シンジくんはよく戦った。ベストを尽くした。 だいたい、心臓が停止するほどのビーム攻撃を受け、手のひらから肘までを刺し貫かれ、戦友を殺めさせられ、片腕を切断され、生皮を剥がされて、それでも戦うことのできる中学生なんて、世界中どこを探したっているはずがないのだ。いくらアニメとはいえ、あまりにも苛酷な状況をシンジくんは戦い抜いてしまった、そんな義理は何一つなかったのに……。 誰よりも勇敢だったシンジくんに対して、エヴァ世界の大人たちは何をしたというのだろう? 誰ひとりと

    エヴァンゲリオン殺人事件 - 未来の蛮族
  • せめて、もっと人殺しの顔をしろ - 未来の蛮族

    TVでは、芸能人が我々に呼びかけている。「デマに騙されないようにしよう」ずいぶんと難しいことを言ってくれる、とおれは思う。デマに騙されようと思って騙される人間はいない。みな、正しいことをするつもりで間違えるのだ。 芸能人たちはこんなことも言っていた。「被災者の気持ちになって考えよう」確かにこれは大事なことだ。けれど、難しい。とりわけおれのような人間にとっては。おれは頭が悪いから、福島の原発について、土地を奪われた人間の気持ちをほんとうには想像することはできない。ただ、自分に置き換えて考えてみることしかできない。 もしも、自分の住む街に原子力発電所があったらどうだろう? 自分の故郷が、放射性物質に汚染されてしまって、二度と帰ることできなくなってしまったらどうだろう? しかも、その原子力発電所は遠く離れた東京に電気を供給するための施設なのだ。なぜ、自分たちだけが、東京の犠牲にならなければならな

    せめて、もっと人殺しの顔をしろ - 未来の蛮族
    grindrocker
    grindrocker 2011/04/16
    自分がどういうものを外注しているのか、それを止めて自分とこで引き受けたらどういうことになるかは忘れないようにします。
  • 最終章 宇多田ヒカル - 未来の蛮族

    宇多田ヒカルについて、ずっと書きあぐねたまま、どれだけの時が経ってしまったのだろう。少なくとも年の単位で、おれの文章は彼女に触れることをためらい続けている。もともと、おれは「風林火山の如く女を語れ!」という、90年代のアイドルをテーマにした一連の企画の最終章に宇多田ヒカルをもってきたいと考えていて、風*1、林*2、火*3、とここまでは順調に書き進めることができたのだけど、山、すなわち宇多田ヒカルまでやってきたところで、突然に文章を書くことができなくなってしまったのだった。 他の三人に比べて、宇多田ヒカルに特別な思い入れがあるわけではない。それほど難しいテーマだとも思っていない。おれは、彼女のことは分かりすぎるくらいに分かっているつもりだ。にもかかわらず、おれが彼女について書くことができないのは、書いてしまえば、書いて、ネットにアップしてしまえば、きっと彼女はその文章を見つけてしまうだろうこ

    最終章 宇多田ヒカル - 未来の蛮族
  • 疾風の如く、女を語れ! 第一章 川本真琴 - 未来の蛮族

    真琴。今となっては、ずいぶんと古い名前に感じられるかもしれない。 映像は、彼女のデビュー曲、愛の才能*1。当時13歳だった僕は、この曲の歌い出し、しょっぱなのワンフレーズだけで、一瞬のうちに恋に落ちてしまった。 「成長しない」って約束じゃん 僕の衝撃を想像頂けるだろうか。なにしろ僕は13歳だったのである。右も左もわからぬ年齢だ。右も左もわからぬままに右頬を張り飛ばされて、僕は頼まれもしないのに左頬を差し出した。繰り返すが僕は13歳だったのだ。成長痛で夜も眠れない僕に、「成長しない」という「約束」が唐突に突きつけられたのだ。随分、一方的な約束もあったものだが、心を奪われた僕は従わざるをえない。それほどにこの約束は魅力的だった。川真琴……蛙みたいな顔しているくせに、どうしてこんなにエロティックな約束を突きつけることができるのか? 成長、の「せい」、その息遣いに含まれた圧倒的なまでのエロさ

    疾風の如く、女を語れ! 第一章 川本真琴 - 未来の蛮族
  • 足尾銅山には早すぎる(OHT.5) - 未来の蛮族

    レベル上げ、というものを一切やらない子供だった。おれは。ゲームは一日一時間、という昭和の家庭にありがちなルールに縛られていたおれにとっては……レベル上げなんて時間がもったいなくって、とても出来たもんじゃなかった。でも、そのうち、弱いままで荒野を旅することが楽しくなってきた。貧弱きわまりないおれのパーティにとっては、「さまようよろい」辺りのモンスターであっても恐ろしい強敵で、新しい町を探すことさえもが毎回いのちがけの挑戦だった。この一撃で相手が倒れなければこちらが全滅する、というシチュエーションでカンダタを倒したときの興奮は、今でも忘れられない。 そんなこんなで味をしめてしまったおれは、長じてからも出たとこ勝負を好むような人間になってしまった。そう機転の利くタイプでもないくせに、計画と準備なんてカッコ悪いね、なんて風に思うようになっていた。のんきなおれはすっかり忘れていた。ゲームと現実は違う

    足尾銅山には早すぎる(OHT.5) - 未来の蛮族
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