きつね 500円 たぬき 江戸たぬき 450円 京たぬき 550円 大坂たぬき 500円 杏仁豆腐 480円 レモネード 380円 「あー、なんですか? この『きつね』とか『たぬき』っていうのは」 壁に貼られた短冊状の品書きを見て、私は猫釜神康氏に尋ねた。 「これは当店のメニューなのです。まだ店を始めたばかりなので、まずはスタンダードから初めてみることにしました」 と猫釜氏はピントのずれたこたえを返した。 私は思わずのれんに目をやった。「中華麺工房:迷い猫」と書かれている。店先の赤ちょうちんにも「ラーメン」と書いてあるから、ここがラーメン屋であることは間違いない。 だが、猫釜氏の発想がずれているのは今に始まったことではない。私は彼にわからぬようにそっと肩をすくめた。 私が猫釜神康氏と知り合ったのは今から3年前のこと。恩賜有馬記念公園を散策していたところ、噴水脇にござを敷いてポンチ絵を並べ、