「娘は今でも家のドアがノックされる音を聞くとこう言うのです。『ママ、警察が来たの?』」 2015年7月10日、著名人権派弁護士・李和平の事務所に警察がやってきた。その時、李の5歳になる娘も一緒だった。李は娘を妻の王峭嶺に預けるとそのまま警察に連行され、消息不明になった。ようやく警察から通知があったのは翌16年1月。「国家政権転覆」容疑で逮捕したという知らせだった。 王は私のインタビューに対し、父親が連行される姿を見た娘が受けた心理的ショックはなかなか消えないと打ち明けた。 拙著『中国 消し去られた記録〜北京特派員が見た大国の闇』(白水社)には、「人が突然、しかも次々消えてゆく…」の中国の現実を記した。 中国だけでない。「一国二制度」の下で司法の独立や言論の自由が保障された香港でも、「人が消える」事件が香港社会を震撼させている。共産党指導者の内幕や一党独裁体制に批判的な本を取り扱った香港の「