007を生んだ英国はスパイの本場の観がある。シェークスピアの戯曲「マクベス」にも「どんな屋敷にも一人くらいは使用人として住み込ませている」というせりふがある。ひそかにスパイを送り込んで動向を探るのは伝統なのだろう。ロシア情報機関の元大佐は二重スパイだった。 ▶西側に情報を流したとして禁錮13年の判決を言い渡されたが、スパイ交換で英国に亡命した。安住の地になるはずが、神経剤で襲撃され、娘とともに意識不明の重体になった。ほかにも亡命ロシア人の不審死が相次いでいる。ロシアは関与を否定するが、疑いは限りなく濃厚だ。 ▶英政府はロシアの外交官23人を国外追放にし、ロシア側も対抗措置を表明した。冷戦終結でスパイの時代は終わったとみられたが、なお国際政治の舞台裏では諜報戦の火花が散っている。情報活動は安全保障と同義で、国家の存亡に関わる。日本は「スパイ天国」と呼ばれているのに、危機感はまるでない。