前回の末尾のところで、新島広一郎の『講談博物志』に言及したが、これは講談本に対する情熱と長い年月にわたる収集をベースにした驚くべき労作である。その収集は明治二十年代の大川屋の講談本から始まり、昭和六十年の講談社の「歴史講談」に至る、ほぼ百五十四シリーズに及ぶもので、しかもそれらのすべての書影を掲載し、それぞれの内容にもふれている。 これらの講談本は同書でしか見ることができないものも多く、それらの書影をたどっていくのは未知の扉を開いていくようでもあり、また私見によれば、講談本という分野を広く網羅することで、『全国出版物卸商業協同組合三十年の歩み』を補充する重要な出版史資料と判断していい。それゆえに多くの知らなかったことを教えてくれる。 だが『講談博物志』は私家版で少部数刊行されただけであり、同書に目を通している読者は少ないと考えられるし、古書市場にも見出すことが困難である。それでも最近の中野