彼女の息子は私と目があってもお母さんのスカートの後ろに隠れようとしなくなった。初対面から一時間、それなりに認知されたようだ。彼女はそうねもう大丈夫かな、ちょっとだけ見ててもらってもいい、と言った。もちろんと私はこたえた。 五歳になったばかりの男の子とふたりでベンチに座ってペットボトルのお茶をのむ。五歳児ってどんな世界に生きているのかしらと私は思う。ほとんどの記憶をうしなう三歳を過ぎて、もしかしたら今日のことを覚えているかもしれない。知らない人があらわれただけで場所はいつもの公園だから、すっかり忘れてしまうかもしれない。彼はどういうかたちで記憶を保持しているのだろう。ことばの数はそんなにないはずだ。でもそれなりに抽象的な思考をしているようにも見える。 彼は水筒を口にあてて、それから少しこぼした。私は、ああそれおばちゃんもよくやっちゃうんだよね、と言いながら、ハンドタオルを手渡した。彼は目を大