ひとは、人生の道半ばにして暗い森を彷徨うことがある――わたしはそれを知っている。 まだ、そこから抜け出せていない。 でも、ひとはみな一度はそこを歩むのだと知ることができて、幸福だとは言わないけれど、知らないままでいないでよかったと思うようになった。 1865年、南北戦争直後のボストン。 ダンテ生誕600年にあたるこの年、この街にアメリカ初の『神曲』の翻訳出版を目指し、『地獄編』の翻訳に取り組んでいる文学者らのクラブがあった。クラブの名は――ダンテ・クラブ いわゆる歴史ミステリーに分類されるのかな? 実在の登場人物たちが奇怪な殺人事件にまきこまれ、それを解決するべく活躍する。 登場人物たちの多くはアメリカの大詩人ロングフェローをはじめとした「文学者」だ。 彼らの人となりが素晴らしい。友情と不和、憧憬と嫉妬、文学への愛情と家族への想いなど、丁寧に、描かれている。ことに詩人であるホームズ医師の小