甘い憂鬱 シミのことを考えると、亡き母のことを思い出す。母はほとんど化粧をしない人だった。紫外線対策も然り。大中小とバリエーションに富んだシミが頬を中心に散らばっていたし、手の甲にも、私のものよりずっと大きなシミがあった。 ある日、自由闊達を絵にかいたような母が、鏡台の前で珍しく嘆いていた。「こんなにシミだらけになっちゃった。昔は綺麗な肌だったのに」。 小さな私は急に悲しくなって、母の腰にすがり「どんなにたくさんシミがあってもお母さんは綺麗だよ。大好きだよ」と懸命に伝えた。心の底からそう思った。母の美しさは、シミの数なんかでは決まらない。 娘の狼狽を見て、母は「ありがとう。優しい子だね」と微笑み、抱きしめ返してくれた。親としての体裁をなすために、母は「あるべき母親」として振舞ってくれたわけだ。 それとこれとは話が別だと、いまの私ならわかる。人生におおむね満足しながら、シミが増えたことを憂鬱