感情的な物言いは嫌われがちだ。誰だって思いつきでどなられたり、穏やかではない声を聞かされたりするのはうれしくない。でも、あまりに感情を伴わない声も、心に響いてこないものだ。 ここ30年ほどの歴史を振り返って、この1年間ほど、各国の政治リーダーが真顔でじかに国民へ語りかけたことはなかった気がする。ましてや景気や選挙とは違って、国民の生命そのものに関して、演説をふるった例はほとんど記憶にない。それだけに様々な語りかけのスタイルを見聞きする、貴重な機会ともなった。 新型コロナウイルスへの感染対策を訴える演説のうち、際立って評価の高いのは、ドイツのメルケル首相が2020年12月に連邦議会で述べた演説だろう。クリスマスを控えたタイミングでの演説で、「祖父母と過ごす最後のクリスマスになってしまうなんてことは、あってはなりません」と、不用意な会合・会食にくぎを刺した。遠回しではあるものの、かなりはっきり