今回は「悪魔の寵児」をご紹介します。 悪魔の寵児 (角川文庫) 横溝正史先生の金田一耕助シリーズは、執筆時期や発表媒体によって作風に大きな変化があります。 一般に「名作」とされる「獄門島」や「八つ墓村」「犬神家の一族」などは、主として昭和20年代に書かれたものでした。 これらの作品は、謎の構成が重厚で、ストーリーも比較的格調高いものになっています。 それに対し、主に昭和30年代になってから書かれた「幽霊男」「吸血蛾」に代表される通俗的作品では、謎の殺人鬼が暗躍し、美女が次々に惨殺されていくという単純かつ俗悪と表現せざるを得ないテイストを持っていました。 これは、作者のモチベーションの低下や文壇の流行の変化によるものでしょうが、本格を望むファンにとってはフラストレーションのたまる状況だったに違いありません。 そんな中、正史は一連の岡山ものの総決算として「悪魔の手毬唄」を執筆します。 悪魔の手