「僕」という一人称の歌詞を、女性歌手が歌うことがある。 特に、歌詞を専門の作詞家が書いた場合、本人の意向や方向性とは別にそのようになることも少なくない。 女性の歌で一番有名な「僕」は太田裕美の「木綿のハンカチーフ」であろう。 だが、これは男性と女性が代わりばんこで、なおかつ相手に宛てた手紙の文面という特殊性がある。 同じ太田裕美の曲であれば、「しあわせ未満」の方が純粋な「僕」であると思われる。 昔のアイドル歌手で言えば榊原郁恵の「夏のお嬢さん」も、典型的な「僕」が表現されている。 女性歌手に「僕」と歌わせることの最大の効能は、聴き手が曲に投影させやすくなるという点である。 特に、太田裕美のような柔らかな声での「僕」に投影させることは、自分自身も柔らかで安らかになれる利点がある。 来生たかおと薬師丸ひろ子の「夢の途中(セーラー服と機関銃)」を聴き比べても、投影したいと思わせるのは後者であろう