読書について(昭和43年夏) 学生「先生は、われわれが身上調書の趣味の欄に読書と記したり、自己紹介のさいに読書が趣味だと言ったりすると、にがい顔をなさるのは何故ですか」 先生「食事が趣味だと書いたり言ったりしたら滑稽でしょう。それと同じです。人間生きているかぎり食事によって身体を保ち養うことが必要であるのと同じように、否それ以上に、われわれは読書によって精神に糧を与えねばなりません。人間でありつづけるために到底欠かすことのできない性質の事柄を、趣味あつかいにしては、おかしいではありませんか。 なお、食事において偏食が禁物であるように、読書にあっても偏食はいけません。仕事に関係のある書物だけを、必要に迫られて拾い読みをし、それで読書しているかのよう顔をなさる人々には、読書のなんたるかを弁えない人たちです。そういう人々を見ていると、せっかく人の子に生れつきながら、機械になろうと努めておられるよ