哲学者 内田樹この記事の写真をすべて見る 哲学者の内田樹さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、倫理的視点からアプローチします。 * * * 北九州で「抱樸(ほうぼく)」というホームレス支援活動をしている奥田知志牧師が、ミュージシャンの後藤正文さんと対談している文章を読んだ。 素敵な対談だった。 奥田さんはもう30年にわたってホームレスを支援している。でも、食べ物を配っても、住むところを提供しても、仕事を世話しても、訪ねてゆくと一人でぽつんと部屋で座っている人がいる。世の中とつながりを持つ意欲がないのだ。 ある時点でそういう意欲を根こそぎ奪われてしまったのだ。 自分なんか生きていても死んでいても、どうでもいい。誰も喜ばないし、誰も悲しまない。だから、奥田さんから差し伸べられる救いの手にも応えようとしない。 そういう人に対して奥田さんは「外から差し込んでくる