異形の男が生まれた。 彼の母親は子宝に恵まれず、軋犖山(あつらくさん)にいます神に日ごと夜ごとに懐妊を祈った。すると霊験あらたかに身籠り、十月十日を経て正月一日に出産に至った。 今しも出産するという夜、あたり一面に赤光がきらめき、群れ集まった獣の遠吠えが響きわたり、妖しい星が光芒を放ちながら母親のいるゲルに向かって落ちていった。 奇怪な出来事が次々と起こるのを見た彼女は、わが子は神の申し子にちがいないと考え、Roxšan(ソグド語で光という意味)と名付けた。後に大唐国に対して叛乱を起こした安禄山の誕生である。 異民族の両親を持ち、巨漢だった安禄山は、貿易の仲介人として活躍した経歴からもうかがえるように、人心掌握に長けていたようだ。仕えていた張守珪の養子となり、また玄宗皇帝と楊貴妃にも「養子」として迎えられたというエピソードも伝えられている(イラスト/正子公也) 父親は康国(サマルカンド)を