英メディアの裁判報道で最近、ある日本の植物が話題だ。ジャパニーズ・ノットウィード(Japanese knotweed)という植物で、タデ科のイタドリを指す。日本ではその名が「痛み取り」から転じたとされるほど、民間薬としての歴史もある植物だが、英国では極めて厄介な外来種として悪名が高い。なぜ英国で特に問題となっているのか。背景を探った。(ロンドン・加藤美喜)
二〇〇四年春、東京・神保町。ロンドンの古書バイヤー、タイタス・ボーダー(58)は、立ち寄った古書店でモノクロ写真の束に目を留めた。二〇×二五センチほどの大きさで、二人の刑事を中心とする犯罪捜査の場面が写っている。フィルム・ノワール(暗黒映画)のようだが、生々しい。店主は不在で、店員が「映画のスチル写真かもしれません」と言った。 翌日店に戻ったボーダーは百二十枚すべてを購入。フジフイルムの古い緑色の箱に入った写真がロンドンに届いた。「すべてのプリントに、言葉を超えたエネルギーがありました」。聞き込みから捜査会議、鑑識の様子まで撮っている。被写体に俳優らしさがなく、実際の捜査の場面だと確信した。木村伊兵衛や土門拳など日本の戦後の写真家の写真を長年扱ってきたボーダーだが、渡部雄吉(わたべゆうきち)の名は知らなかった。なぜ犯罪捜査の場面を撮れたのか、どのようにして撮ったのか。そんな疑問を残したまま
文化庁の登録美術品調査研究協力者会議の座長を務めていた佐藤康宏東大名誉教授が、菅義偉首相が日本学術会議の推薦した新会員候補6人の任命を拒否したことに抗議し座長を辞任していたことが分かった。(望月衣塑子) 佐藤氏によると、10月1日に報道で任命拒否を知り、同3日午後、文化庁の担当者らにメールで「専門家を専門家として尊重しない政府のために働くつもりはない。今後は政府関係の仕事はすべてお断りする」「会議直前で迷惑をかけるが、多少とも迷惑をかけなければ抗議の意味もない。よろしく御理解願う」などと辞意を伝えたという。5日に担当者から電話で慰留されたが、意思は固く、別のメンバーを座長にしてもらうことで合意し、7日付で辞任した。 佐藤氏は「菅首相や杉田和博官房副長官は、一貫して戦争目的の科学研究に慎重な姿勢を示してきた学術会議を邪魔な存在とみなし、特定秘密保護法や安保関連法に異を唱えてきた6人を意図して
新型コロナウイルス感染症拡大による政府の緊急事態宣言を受け、東京都が民間事業者などに休業を求める範囲について、百貨店、屋外スポーツ施設、博物館や美術館などを除外する方向で検討していることが、関係者への取材で分かった。政府の対処方針で継続が必要とされている理美容店やホームセンターも除外の見通し。 (岡本太、小倉貞俊) 都は広く休業を求めたい立場だが、政府は難色を示しており、都は部分的にでも取り組む方針。 一方、政府側は居酒屋やカフェなどについても除外するよう求めている。都側は対象としたい考えで、さらに協議する。要請対象とする店舗の広さも、議論になっているという。 休業を巡っては、都は六日、自動車教習所や劇場、ショッピングモール、パチンコ店やネットカフェなど中小規模を含めて幅広く休業を要請する方針を固めていた。国は「外出自粛の効果を見極めるべきだ」などとして、休業要請は先送りするよう求めていた
米国によるビキニ環礁水爆実験で一九五四年に被ばくしたマグロ漁船「第五福竜丸」を保存する東京都立第五福竜丸展示館(江東区)が、東京五輪・パラリンピック期間に合わせて休館する。展示館がある夢の島公園はアーチェリー会場となり、警備で園内の通路が封鎖され、展示館に行くのが困難になるためだ。核廃絶に取り組む市民からは、国内外から観戦客らが訪れる絶好の機会に、核兵器による被害の悲惨さを伝えられないことを惜しむ声が上がっている。 (北條香子) 展示館は七六年に開館し、船の実物を展示。昨年四月に改修工事を終えてリニューアルオープンしたばかりだ。入館無料で、公園を訪れる人らが気軽に立ち寄って核による被害の実態を学ぶ場となっている。
百年前、英国の女性参政権獲得運動を支援した愛知県豊田市出身の画家牧野義雄が収集していた女優らの写真カード約四十枚が英国で見つかった。当時、ロンドンの売れっ子画家だった牧野は女性参政権の正当性を著書で主張。英国女性の絵を多く描きながら「女性は人間製造機ではない」と、女性の権利向上を訴えた。カードからは、牧野の英国女性に対する愛着が垣間見える。 (ロンドン・沢田千秋) 写真カードの束を発見したのは、ロンドン南郊サリー州の日英交流史研究家、恒松郁生(つねまついくお)さん(67)。ずいぶん前に段ボールなどでまとめて購入した牧野の遺品を最近整理したところ、見つかった。 カードは一九〇〇~一〇年代のたばこ「オグデンズ」のおまけで、縦六センチ、横四センチ。英国の女優や歌手、王室関係者など、大半が女性の写真。「牧野は絵の参考に集めたのではないか」と恒松さんは言う。 牧野は夏目漱石と同時代にロンドンに滞在し
明治から大正期にかけての日本で最も高い建築物で、関東大震災で半壊し解体された「凌雲閣(りょううんかく)」の基礎部分とみられるれんがと、八角形のコンクリートの土台の一部が、東京都台東区浅草二のビル工事現場で掘り起こされた。「話には聞いていたが、初めて見た」と街の話題になっており、工事の柵越しにスマートフォンで撮影する人もいる。 九日に現地で記録、測量をした区教育委員会の文化財調査員によると、同様のれんがは一九八一(昭和五十六)年にも近くの建設工事現場で出てきた。当時の記録と対応し、今回も「凌雲閣の可能性が高い」としている。 凌雲閣は、一八九〇(明治二十三)年に建設された十二階建て、高さ五十二メートルの塔で、「浅草十二階」の愛称で親しまれた。展望台から東京が一望でき、日本初の電動式エレベーターが設置された。一九二三(大正十二)年の関東大震災で半壊し、地上部分は取り壊された。
高崎市の県立近代美術館で開催中の企画展で、朝鮮人強制連行犠牲者追悼碑を模した作品について館側が要望し、制作した美術家に開催直前に撤去させた問題で、同美術館の設置管理条例に撤去の根拠となる条文がないことが、県への取材で分かった。法律の専門家は「撤去に何の基準もないとしたら、問題だ。県の恣意(しい)的な判断が繰り返される恐れがある」と指摘している。 (菅原洋) 東京都美術館で二〇一四年に開かれた彫刻家団体の定期展では、造形作家が当時の政権を批判する作品を展示し、都が撤去を要請。都はその根拠として、都美術館条例に基づく運営要綱で、作品が政治的と認められる場合に館の使用を不承認にできるとする規定を挙げた。それでも、都は造形作家が作品の一部を変更したため、会期末までの展示を容認している。
完成から二十七年が過ぎ老朽化が懸念される横浜美術館(横浜市西区)=写真=の大規模改修計画が、当初の想定より五年ほど遅れていることが市などへの取材で分かった。二〇二〇年東京五輪に間に合わせるため一九年度までに工事を終える予定だったが、他の施設の改修を優先したという。美術品の収蔵・収集などに影響が出る可能性があるが、市は計画の遅れを公表していない。 (志村彰太) 横浜美術館は一九八九年の横浜博覧会に合わせ、みなとみらい地区に開館した。建物は鉄筋コンクリート八階建てで、日欧の近現代芸術作品を収集、紹介している。一四年度の入館者数は五十三万人。 外見上はきれいな現代建築だが、市文化振興課は「不具合も出てきている」と話す。四~七階の収蔵庫は満杯に近づき、拡張が必要。収蔵できる限界量を市は試算していないが、近年では毎年三百点ほど収蔵数を増やし、昨年は計一万一千点を超えた。
シーボルトに贈られた「タンキリマメ」の押し葉。右下に伊藤が書いた片仮名が見られる(オランダ国立植物学標本館所蔵) 江戸時代後期に長崎で蘭学を教えたドイツ人医師シーボルトが日本の植物を体系的にまとめた「日本植物目録」は、「近代植物学の父」と呼ばれた弟子の伊藤圭介から贈られた草花の押し葉を基に、共同で作られていたことが分かった。二人の師弟関係の深さが、ドイツ、オランダ両国で別々に保管されていたシーボルトの関連資料で初めて明らかになった。 (市川泰之) 伊藤について研究している「圭介文書研究会」の遠藤正治事務局長(75)=岐阜市=と、同会の独協大名誉教授加藤僖重(のぶしげ)さん(74)=東京都新宿区=が、実際にオランダを訪れるなどして調べ、研究成果を六月下旬、植物専門書の付録として論文にまとめた。 伊藤は一八二七(文政十)年九月から約半年間、長崎に遊学し、シーボルトに植物学を学んだ。その間、二人
横浜市は十八日、本年度の包括外部監査結果を発表した。外部監査人(公認会計士・井上光昭氏)の結果報告書は、市などの主催で昨年開かれた現代美術展「ヨコハマトリエンナーレ二〇一四」の来場者数が、目標の三十万人を大きく下回る二十一万人にとどまったことについて「事業の有効性・効率性が低い」と指摘し、改善を求めた。 同展は三年に一度の開催で、五回目の昨年は八月一日~十一月三日に横浜美術館などを主会場に行われた。監査結果によると、総事業費は約十億円で、このうち五億七千四百万円を市が負担。これを来場者数一人当たりにすると、総事業費は四千七百六十六円で過去二番目に高く、税金投入にあたる市負担額は二千七百三十七円と過去最高だった。一~四回目の一人当たり市負担額は、二百八十六~千九百七円。 監査意見では、美術展の性質上、事業効果を入場者数など「定量的な効果だけでは測れないのも事実」としつつ、「今後も継続するなら
日本初の公立近代美術館でモダニズム建築の傑作とされる神奈川県立近代美術館鎌倉館が二〇一五年度に閉館する見通しになった。建築・美術界からは閉館後の建物保存を求める声が上がっている。 (森本智之) 「小さな箱」と呼ばれ白くシンプルな構造が親しまれてきた同館は一九五一年、鶴岡八幡宮の一角に土地を借りて開館した。老朽化が激しいが、国史跡である八幡宮の境内は文化財保護法により原則、大規模な工事はできない。このため県は改修工事を断念し、土地の賃貸契約の切れる再来年度末までの閉館を決めた。 県立近代美術館はほかに二館あり美術館としての機能は残る。ただ、鎌倉館は近代建築としての評価の高さから、保存できるかが現在の焦点になっている。保存にも一定の改修が必要で、やはり文化財保護法がネックになるからだ。
男女の性愛を描いた春画の本格的な展示会が今秋、英国の大英博物館で開かれる。この巡回展が日本でも計画されているが、主要な美術館などから、軒並み受け入れを断られている。春画は近年、芸術性が評価され、女性の鑑賞者も増えている。一方で「わいせつ画」のレッテルを貼られた歴史が長く、公の場での展示には難しい問題を抱えている。 (森本智之) 大英での展示は、葛飾北斎や喜多川歌麿など名だたる浮世絵師の百五十点余を紹介し、春画の起源から現代絵画への影響まで解き明かす。期間は今年十月から来年一月まで。日英交流四百年を記念し、春画だけの展示は同館でも初の試みだ。 「春画は奥深いアート。単純なポルノとは違う」。立命館大特別研究員の石上阿希(あき)さん(33)は話す。数少ない春画研究者の一人として、昨年まで大英の特別学芸員としてロンドンに駐在。出品作品の選定などに当たった。石上さんらによると、欧州では早くから春画の
認可保育所に四月から子どもを入所させようと申し込みながら、「入れない」と通知された東京都杉並区の母親らが十八日、区役所前で抗議の声を上げた。保育所不足で希望者の約三分の二の約千八百人が入所できない状況。母親らは「異常事態」「区の対応は不適切」として、二十二日に集団で行政不服審査法に基づく異議申し立てを区に行う。 区が募集した認可保育所の新年度の定員は千百三十五人。そこに三倍近い二千九百六十八人が応募した。十四日に入所の可否が通知され、待機児童になる不安を抱く母親らに戸惑いが広がっている。 認可保育所に入れない子どもの数は年々増えているが、区の施設整備は追いつかない。しびれを切らした母親らは「保育園ふやし隊@杉並」(曽山恵理子代表)を結成。この日の抗議集会で、異議申し立てを提案した。
「官から民へ」をスローガンに、小泉純一郎元首相の肝いりで二〇〇三年に導入された指定管理者制度。全国最大規模の導入実績を誇る横浜市は、全国でも先進自治体だ。多くの施設で契約の更新時期を迎えているが、積極的な民営化路線に変化の兆しも見える。美術館や博物館などの文化施設では、非公募に切り替えたり、既存の外郭団体に管理を戻したりするケースが増えている。 (中沢誠) 横浜市は市議会の十二月定例会に、「横浜美術館」(西区)の指定管理者の契約更新の議案を提出した。管理者の選定を公募から非公募とし、外郭団体と民間企業二社との共同管理だった契約を元の外郭団体単独に変更。契約期間も五年から十年に延ばすというものだ。 横浜市の場合、指定管理者制度導入にあたり、当時市長だった中田宏氏が、市民サービス向上とコスト削減から、市の公共施設の管理者を原則公募とする方針を打ち出した。文化施設にまで対象を広げたことは、全国で
原子ギターを制作した山川さん。手前の皿に盛られた土に含まれる放射性物質を黄色いガイガーカウンターが感知すると、ギター裏の黒い装置が振動する=水戸市で 目に見えない放射線をとらえて「反原発」の音を響かせる-。そんな創作楽器「原子ギター」が水戸市の水戸芸術館に展示されて話題を集めている。制作したのは横浜市のアーティスト山川冬樹さん(38)。反原発を訴える一方で、電気がなければ音楽活動できない自身の「矛盾」を表現したという。東京電力が福島第一原発事故でまき散らした放射性物質によって音を鳴らすという皮肉あふれるギターが、被災地に悲しげな音色を響かせている。 (永山陽平) 山川さんはアーティストとして音楽活動を続けながら、東京芸術大の取手キャンパス(取手市)で講師として映像制作を教えている。原発事故の発生後、県内で空間放射線量がとりわけ高い取手市に横浜市から通っているうちに「このまま原発を続けてはい
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