「語用論」(pragmatics)というのは、一言でいえば、ことばとその意味を、私たちがふだん行っているコミュニケーションの場面にそくして、考えていこうとする学問のことです。 こういうふうに言うと、ちょっと疑問をもつ人がいるかもしれません。ことばの意味というのは、それぞれのことばごとに決まっているものではないのか?あることばのもつ意味が、場面場面で変わってしまうとすれば、私たちはコミュニケーションできなくなってしまうのではないか?「リンゴ」があるときにはリンゴのことを意味し、別のときにはバナナのことを、また別のときにはミカンのことを意味するとしたら、「リンゴを買ってきて」と言われても何を買ってきたらいいのかさっぱりわからなくなってしまうじゃないか? 確かにそのとおりです。ただ、それでもことばの意味には、コミュニケーションの場面ごとに少しずつ違うことがあるのです。まずは、次のような会話を