柏崎市内の小さな絵本館「サバト」に、少し疲れた様子の女性が訪ねてきたのは4月初旬のことだった。 「読み聞かせボランティアに参加したいのですが」 福島県大熊町で中学校の図書館司書をしていた野地温子さん(52)だった。 自宅は福島第一原発から約4キロ。東日本大震災に見舞われ、津波の被害は免れたが、ドアがゆがむほど揺れた。当日は車で一夜を明かし、翌朝、歩いて避難所に。3月下旬、原発関係の会社に勤める夫(52)とともに柏崎のアパートに移ってきた。 持ち出したのは小さなバッグ一つ。着替えも車も置いてきた。「避難といっても、安全のためだとのんきに考えていた。まさかこうなるとは……」 柏崎に知り合いはほとんどおらず、じっとしていても気がめいるだけ。「読み聞かせとか、本にかかわる方法はないですか」。こう尋ねた市立図書館で、サバトのことを教えてもらった。 迎えられた野地さんは司書経験を生かして蔵