下は二年前に萩市で行われた加藤周一の講演をブックレットに収めたもので、松陰の思想と魅力について加藤周一の表現で分かりやすく纏められている。同じ権威でも司馬遼太郎なら受け付けないが、加藤周一なら襟を正して聴くという人間(左翼)が少なくなく、これを紹介するのは意味のないことではないだろう。三十年前に書いた『日本文学史序説(下)』では、松陰の思想に対して「独創性がなく」「非現実的」だという言葉を与えていた加藤周一が、三十年経ってほとんど全面肯定に評価を変えている。三十年前は松陰の思想の「非現実性」を批判していたが、今回の講演では逆に「現実主義」が評価されている。これを読みながら思ったことは、時代の変化という問題であり、加藤周一が松陰的人物の出現を狂おしく求めているという一事である。加藤周一でなくても気分は誰しも同じだろう。時代が煮詰まってきた。「九条の会」に連なる末端会員の中には「護憲は長い道の