伊地智先生がすべてを注がれだ中国語辞典がもう間もなく完成しようとしている。私は白水社の担当編集者として、入社以来、2001年4月13日に先生が亡くなられるまでの十年間、香里園のお宅へほぼ毎月一回通っていた。最後に訪れたのは先生が入院後の3月9日で、場所こそ病室ではあったが、先生との話題はいつもと変わらないものであった。その時点では確かに、退院されても辞典の仕事を続けるのはもう難しいかも知れない、という気持ちを抱いたが、それでも暖かくなる頃には元気になられて退院されるだろうと漠然と考えていた。そのため、4月に入り先生の様態が予断を許さない状態であると聞くまでは、極めて楽観的に日を過ごしていた。 これほど長い年月をかけた辞典の編纂とはどのようなものか、実際に関わっていた人でないとわかりづらいところもあるかと思うので、具体的に伊地智先生が何をされてきたのかを少し紹介したい。 上にも述べたよう