初めはその題名を見ただけで、ちょっとあざとすぎるかと敬遠していたのだが、先日取り上げた『生きる技法』が思いのほか面白かったので、この本も読んでみた。 本書は、我が国のエリートたちが駆使する特有の話法を分析して批判するものであり、とくに原発危機をめぐる彼らの論理を「東大話法」として特徴づけている。その点についての氏の論述は期待通り的確なものであるが、ここではそれとは別に、期待以上に興味深かった近世以来の日本社会についての氏の分析について、取り上げてみたい。 安冨氏は、近世以来の日本社会を、果たすべき「役」(やく)と「立場」という観念で分析する。「役」の成立は「家」の成立と連動していると言われるから、役を果たすのは少なくとも当初は「家」であったことになろう。 近世以後の日本社会は、「お上」または「公儀」から割り振られた「役」を果たす「立場」によって分割され、いわばそれを単位ブロックにして積み上