まず、この語り口調の平易さにほだされる。 さらに整理のよさと手際の周到さでわかりやすいという気にさせる。それで、この本、一気読みできるわけだが、本来ここにあるものの持っているわかりにくさは、思想というもの自体のわかりにくさであるわけで、さらに思想が政治思想として動く昭和を捉えようとしているものであれば、致し方ないのでは、と思う。ただ、時間軸としての戦前=戦後という区分けではなく、昭和が持っていた「二つの貌」を体現している人物を定点にして論じている本書は、この先を同じ著者の別の本で読みたくさせる魅力を持っていた。 著者は、「理の軸」と「気の軸」を設定する。そして、「理の軸」の右に平泉澄を左に丸山眞男を置く。この「理の軸」は「政治理念によって自己形成することを生の理想とし、理念によって論理的に再構成することを重視」する軸とされる。そして、平泉澄を「皇国史観というものを非常に明晰に、論理的に作り