カタコトと軽快なリズムを奏でながら、呉線は海沿いをゆっくりと駆ける。その車窓から見える、瀬戸内海の穏やかな水面に浮かぶ島々の一つが、大久野島だ。 忠海港からのぞんだ大久野島。(安田菜津紀撮影) 今はその姿をゆっくりと眺めることができるが、かつては列車内の海側の窓は、全て遮蔽されていた。大久野島は、「地図から消された島」として、そこで行われていることのすべてが「機密」とされた。日本軍の工場では、毒ガスの製造が進められていたのだ。 岡田黎子さんの画集『大久野島・動員学徒』より。(安田菜津紀撮影) 大久野島は忠海港からフェリーで15分ほどの場所にある。ぐるりと一周しても4キロほどの小さな無人島だ。宿泊施設はあるものの、そこに「居住」している人はいない。 島には今も、ヒ素が入った筒が地中に埋められている場所もある。飲み水にもヒ素汚染の恐れがあり、ちょうど私たちが島に着いたとき、三原市から飲料水を運