劇団ひとり『陰日向に咲く』を読んだ。 いくら恩田陸の推薦文がついていても単行本を買う勇気はなかった。でも、気にはなっていたので文庫化を機に購入。買って良かったと思う。実は、ぼくは劇団ひとりの芸をよく知らない。まともにネタを見たことがない。ただ、色々な「人」を演じているらしいということだけは知っていたし、断片的には見たこともある。結構前のことだけれど、これはテレビ向きじゃないな、と思った記憶がある。そして、あれはきっと「人」に興味がなければできない芸だろうとも思った。そんな「人」への視線が芸ではなく小説になった。そういうことなんだろうと思う。つまり、これは彼の本領である。 繋がる連作短編の見本のような作品だ。もっと情に訴えることに主眼を置いた作品を想像していたから、これは嬉しい誤算だった。劇団ひとりという人は、もしかするとミステリ好きなのかもしれない。親しみやすい文体に油断していると、アっと