平岡敏夫先生が昨年から怒っておられる。日本近代文学研究の泰斗といっても、過言ではない方だ。怒っているのは小林信彦の「うらなり」である。平岡先生はかねてから、「坊っちゃん」は佐幕派の物語だと主張している。これは、異論のないところだろう。江戸っ子の坊っちゃん、会津の山嵐、松山藩のうらなりと、佐幕派が敗れる物語だというのだ。 昨年「文学界」に載ってその後単行本になった小林信彦の「うらなり」は、昭和九年、銀座でうらなりこと古賀と山嵐こと堀田が再会する場面から始まって、うらなりの一人称で回想式に語られる小説だ。そして、うらなりにとって坊っちゃんは、よく分からない男だったとされ、「五分刈り」と呼ばれている。平岡先生は、昨年出された詩集『明治』の中で、こういう「坊っちゃん」の見方に怒りを示しておられたが、『群馬県立女子大学 国文学研究』の今年度号に書かれた「うらなりの声」というご論文の抜き刷りを送ってく