経済がまだ十分に回復していないか、あるいは不況のど真ん中で、増税や歳出削減など政府から国民に流れるおカネを遮断する発想は、「緊縮政策」あるいは「清算主義」と呼ばれている。風邪が治らないうちから、寒空の中でハードな訓練をすれば潜在能力が増すと考えるようなものだ。個人ならばその人の自由だが、日本経済にそれを適用されたら、国民はたまったものではない。 ところがこの清算主義思想は、日本の決定的な転機に顔を出してくる。有名なところでは、1930年代初めの昭和恐慌だ。信じられないかもしれないが、毎日・朝日などの主要メディアはこぞって「景気を最悪なものにして経済の膿(うみ)を出せ」と大合唱していた。 世論も乗せられ、緊縮政策を進めた当時の浜口雄幸首相は「ライオン宰相」と言われ国民的人気だった。いまでも浜口を偶像(アイドル)としてみる人が多い。これは構造改革主義者でもあった城山三郎の小説『男子の本懐』(浜