好きな人の下駄箱にラブレターを入れたのは、高校生の頃だ。 彼は物静かな人で、教室をのぞくといつも本を読んでいた。誰かに話しかけられると本から顔を上げて笑って何か答えていて、その優しさとおとなっぽさに私は憧れた。 その作戦を決心した朝、私は誰よりも早く登校して、隣のクラスだった彼の下駄箱をそっと開けた。息を止めて目をつぶって小さな手紙を入れてしまうと、階段を駆け上がり、みんなが来るまで教室の隅の方でじっとしていた。変な汗と震えが止まらなかった。こんなことになるなら、「なんの本を読んでるの?」と可愛く話しかけてみたほうが遥かに良かったのではないかとも思ったけど、活字中毒の彼なら手紙という方法を喜んでくれる気がしたのだ。 だけど結局作戦は失敗に終わった。彼からはなんのレスポンスも来なかった。彼がその手紙をちゃんと見つけてくれたのかどうかもなんの手がかりもなく、フラれたのかどうかもわからなかった。