思うに、ヒトの知性には二つの方向性がある。 一つは「単純化の知性」だ。モノゴトを単純化すると、複雑なままでは見えなかった秘密が浮かび上がってくる。現代科学は、単純化と理論化を繰り返しながら発展してきた。単純化の知性は、ヒトの知性の本道だといえよう。 もう一つは「複雑さの知性」だ。私たちが生きるこの世界は極めて複雑だ。それを省略・簡素化せずに、複雑なまま理解する。そういう知性もある。「画像記憶」がいい例だ。たとえばテーブルの上に並んだ料理を「料理名」として認識・理解するのが単純化の知性だとしたら、並んだ料理をまるで写真のように画像・映像として脳髄に焼き付けるのが「複雑さの知性」だといえる。 並んだ料理ならば単なる「記憶」にすぎないが、たとえば経済構造だとか国際関係だとか、そういう抽象的なものに対して「あるがまま」に理解できる人たちがいる。記憶のみならず「思考」までもが画像的・映像的な人たちだ