父親が加古川の神鋼病院で最初に入れられたのは集中治療室(ICU)だつたのだが、ここの看護婦の我々に対する対応からは、人の生死が掛つてゐるといふ緊迫感がまつたく感じ られなかつたものだ。 私がICUに行くと、入り口に看護婦が出てきて、患者が酸素マスクを付けて苦しんで今にも死ぬかといふときに、既に医者に話した患者の症状の話を一から私 にさせて、入院手続きの説明を長々とするのだ。 翌朝からは父の症状がどうなつたか知りたくて毎朝ICUに電話を入れるのだが、電話に出る看護婦はこちらが患者の名前を告げても「何の御用ですか」と言ふ 始末である。 そして、症状はどうかと聞くと、それは医者にしか答へられないと回答を拒否するのだ。それで「血圧は下がつたままか」と聞くと不承不承に「はい」と答へる のみで、懸命な治療をしてゐるといふ雰囲気は全くない。 どうやら、集中治療室ではあつても医者が常駐してゐるわけ