その一つは,Apple社が製品の種類や特徴をあえて絞り,じっくり時間をかけて投入してきたことではないか。iPod関連の一連の製品群を見ると,Apple社は消費者や業界が理解しやすい機能を,一度に少しずつ追加してきたことが分かる。最初はパソコンで符号化した音楽ファイルの再生だけだったiPodに,オーディオ・ブックの再生機能が加わり,その次にiTunes Music Storeで購入した音楽を聞けるようになり,さらに後になってビデオの再生機能といった具合だ。前述のビデオiPodの発売と同時に始めたテレビ番組のダウンロード販売でも,当初からペイ・パー・ビュー方式を取り入れたり,CM入りの無料コンテンツを配付したりすることが,技術的にはできたかもしれない。それでも同社は,一つの番組を1.99米ドルで販売し,一度ダウンロードするとユーザーはそれをずっと所有できるという形式にこだわり続けている注1)。