「僕だってはじめのころは、ちまたでいうところの文章力を養おうとしていたんです。読点を適切に打ち、意味の取りやすいよう短い文章を心がけ、曖昧だったりどちらとも取れる表現を控えるよう努めていたんです」 「新聞記事のような……?」 「そうです。コラムのちっぽけなスペースに分かりよい言葉を並べるあの手の文章を目指していました」 「とてもいいことじゃないですか」 「そうでしょうか……?」 「読み手の負荷を減らす文章はよい文章ですよ」 「ところが、僕はあるとき気付いてしまったんです。ブルーバックスのような本を開けば、どうでしょう、そこには僕が目指した文章が落ち着きをもって並んでいたのです。専門的な内容を初学者に説く平易なテキスト……。それをものにしかけていた僕はそれまで求めていた文章に絶望しました」 「なぜです? 何か欠陥があったということでしょうか?」 「欠陥……欠陥という語句が当てはまるような脆弱