コロンブスによる「発見」以来、カリブ海は様々な人種が衝突し、融合する舞台となりました。カリブ海の人々の植民地支配、奴隷制、年季奉公という痛ましい経験と受け継がれた記憶、そして彼らの出会いから生じた文化的融合を通して育まれた思想は、彼らを「他者」と表象する西洋思想に抵抗する力強さと独自性を持っています。 この連載では、そんなカリブ海の思想を、英語圏のカリブ海文学・思想作品を中心に取り上げ、体系的に解説します。メインタイトルの「私が諸島である」は、トリニダード・トバゴ詩人エリック・ローチ(Eric Roach)の詩“I am the archipelago.”からの引用です。 第1回 ひとつの世界としてのカリブ海 「なぜハイデガーでなければならない? なぜラカンでなければならない?」当時の指導教員であったノーヴァル(ナディ)・エドワーズ(Norval Edwards)教授から投げかけられたこの