「自由はある日突然なくなるものではない。それは目立たない形で徐々に蝕(むしば)まれ、気がついたときにはすべてが失われている…」。三十年前の首相、宮沢喜一氏が遺(のこ)した有名な警句である。本書はその言葉通りの一見小さな、目立たない“事件”を追う。 二〇一九年七月、札幌で参院選の街頭演説をする当時の安倍晋三首相に「帰れ! 安倍やめろ!」と叫んだ男性と「増税反対」の声を上げた女性が北海道警によって強制的に聴衆から排除された。安倍政権への異議申し立てを妨害された市民はこの日、少なくとも九人に上ったという。 法的根拠はない。現場の警察官は「危ないから」「周囲の迷惑になる」と曖昧な理由を繰り返した。先の二人が起こした国家賠償訴訟で、道警側は犯罪や小競り合いを未然に防ぐ適法行為と主張するも、札幌地裁はこれを否定。表現の自由の侵害が認められたが、道は控訴している。