先日、怖い文字の本を読んだ。 書体研究家・佐藤敬之輔氏による「文字のデザインシリーズ」全6巻である。全巻を通じて圧倒的な情報量なのだ。日本語書体をつくるために、ここまでの研究と分析、鋭い洞察力と知識が必要なものなのか。もし書体デザインを志して、最初にこの本と出会ってしまったら、その時点で挫けてしまうのではないかと思えるほどだ。 そんな佐藤氏の設計した書体の中でも、もっとも独創的でコンセプチュアルな作品「横組用平斜体 明朝体〈昭和〉」を今回取り上げたい。まずは提示された書体見本を見ていただきたい。 この書体は本文用の「横組専用書体」として、1962年『第12回 日宣美』で発表された。 斜体の書体ひと目でわかる特徴は「斜体」だろう。斜体が標準体である書体はとても少ない。鈴木勉氏の「スーシャ(1979年)」と今田欣一氏の「いまりゅうD(1988年?)」が有名だ。斜体なだけでなく一部の字に省略や変