類似する楷書を広く弁別するために編纂された典籍「字様」。 字書とは異なる性格・構成をもつそれは、科挙制度とも深く結びつきながら楷書字形のあるべき姿を決めていった。 筆者の発見した典籍『正名要録』『群書新定字様』の精査から浮かんでくる「字様」という概念を紹介する。 また『説文解字』の検討により、楷書の歴史を整理し、字体の規定の有り様を明らかにするとともに、「楷書」という東アジア漢字文化圏を支える文字体系の解明を目指す。 一 一九七〇年代までの研究状況 一、楷書の秘密 二、楷書とは何か 三、六朝の楷書―異体字の横行 四、『干禄字書』の謎 五、『五経文字』の謎 六、『中國字書史の研究』 二 新資料の出現 一 一、新資料『正名要録』の出現 二、敦煌文書S・388番写本後半部に見える『正名要録』 三、『正名要録』の成書年代 四、新資料『S・388字様』の出現 五、『S・388字様』は『群書新定字様』