<52ヘルツのクジラ>とは何か。普通のクジラの鳴き声は10ー39ヘルツの周波数。ところが52ヘルツで鳴くクジラがいて、世界で一番孤独だと言われているそうです。仲間のクジラに、その声は高すぎて聞こえないから。 2021年本屋大賞の第1位になった「52ヘルツのクジラたち」(町田そのこ、中央公論新社)には、本文中でそんな説明があります。インタビュー記事によると、町田さんは別の作品で海洋生物学について調べているときに存在を知り、あたためていたイメージだったとか。 一見、奇妙なタイトルですが、意味を知れば作品を見事に表していると分かります。児童虐待を経験した主人公の女性。偶然彼女と出会う男の子は、現在進行形で虐待を受けています。重要な役割を果たす、トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)の男性。52ヘルツのクジラたちなのです。 彼らは密かに、理不尽で残酷な仕打ちに心を潰されながら、誰にも届かな