平成の間に、私たちが使う日本語は少しずつ変わった。30年を振り返ると、その変化の積み重なりが見えてくる。方言や敬語を長年研究している東京外国語大学名誉教授の井上史雄氏は、「社会の平等化が進み、言葉にもそれが反映された」と語る。(編集委員 伊藤剛寛) ――平成は、日本語にとってどんな時代だったと考えるか。 「文字通り、平らな時代。社会意識を反映して、言葉も平等化、平準化が進んだ。方言や敬語の変化にそれが表れている。言葉はある日突然変わるわけではないが、人口ピラミッドと同じように30年たつと中心世代が交代する。変化を見るのには十分な長さとなる」 ――方言はどう変わったか。 「社会的地位が上昇した。方言を楽しみ、大切にしようという意識が高まった。明治期以降、国語の統一を目指す動きの中、方言は『撲滅』すべき対象だった。戦後も、方言コンプレックスは続いたが、方言を記録する研究や方言を記した土産物など