魅力はひと言では言いにくいということを、一冊かけて書きました。ただ、はっきりしているのは、時代色がなく、古びないということ。一見、三角関係にある登場人物たちが、じつはまったく違う関係にあったというような、人間関係の先入観を逆手に取りながらミステリーとしての驚きを演出するからです。いまにつながるミステリーの原型をつくった人でもあると思う。 最初に挙げたいのは『春にして君を離れ』。メアリ・ウェストマコット名義で書かれ、ミステリーではありませんが、手法は彼女のミステリーそのもの。読書会向きというか、読む人によってどこに感情移入するか印象が全く変わる。人間観察を核にドラマを生んできた作家としての怖さ、底知れなさが最も出ている。物事が見たままではなかったというのはクリスティーの基本になっています。 『春にして~』に続き、『終(おわ)りなき夜に生(うま)れつく』を読むと、クリスティーの印象ががらりと変