この内容の濃さ、そして突っ込みの方向と度合い、もはや新書ってレベルじゃない。 本書は、哲学書としてのツァラトゥストラを解読するというよりは、むしろ悦ばしき知恵としてツァラトゥストラを哲学書以前の神話的小説として読み解こうという本だ。それだけに哲学者ニーチェの分析という視点で読み始めると、肩すかしをくらうかもしれない。 まず引き出しの多さに驚かされる。 遠近法主義では光学を論じたり、奇妙な登場人物をアルチンボルドの肖像画を取り出して見せたり、ヒュー・ケナーの「ストイックなコメディアン」をひいて「ユリシーズ」と比較して見せたりと、多芸すぎる。また結合術(アルス・コンビナトリア)をはじめとして、ある種の専門用語がバシバシでてくるので、わかる人には愉快なんだけど、初心者にはさっぱりだろう。このあたりも新書っぽさゼロである。 一貫して文学としてのツァラトゥストラを論じる文学センスも興味深い。 奇書と