微生物由来の物質が、生命科学を前進 「微生物がつくってくれたものだけど、それを見つけることができて良かった」——大村智(おおむら・さとし)氏は、アフリカを訪れ、風土病であるオンコセルカ症(河川盲目症)で失明した人たちと接した際の感想をそう口にした。「微生物が作り出したものだから、自慢にはならない」と繰り返し謙遜しつつも、自分の開発した薬が、アフリカの生活を変えたことを心から実感したのだ。 伊豆の土壌にひっそりと潜んでいた菌は大村との邂逅を果たした結果、世界で3億もの人々が抱えていた失明の危機が、永遠に過去のものになろうとしている。この人類への貢献は、2015年ノーベル生理学・医学賞の受賞理由として非の打ち所がない。 私はライフワークの1つとして、2011年から現在に至るまで、日本人が開発に関わった創薬の物語を、医学雑誌に寄稿している。(講談社ブルーバックス『新薬に挑んだ日本人科学者たち』参