国の精神医療政策と地域で生きる権利をめぐるストーリー 利根川を越えると群馬県だった。伊藤時男さんに会いに行く道すがら、寒空にぴゅうと風が吹く。静かだ。ときおり鳥の声だけが聴こえる。 「ジュースを用意しておいたからね」 丘のふもと、庭に面した家の、一階に伊藤さんは住んでいた。 居間には、伊藤さんが描いた絵画や、新聞に投稿した詩や川柳の切り抜きが、ところ狭しと並べてある。 「絵を描いたり、詩や川柳を書いたりしているときだけが、俺の『自由』だったから……」 訴訟へ 1968年、16歳の時に初めて統合失調症と診断された伊藤さんは、1973年から2012年まで、22歳から61歳までの期間、精神病院への入院を余儀なくされた。 初期を除いて精神症状がみられなかったにも関わらず、国の精神医療政策のために退院がかなわなかったことについて、伊藤さんは、「地域で生きる権利」を奪われたとして、厚生労働省を訴えてい