「母子手帳の住所は川崎市だから、そこで生まれたのかな」。高橋未来さん(25)にとって、「出自」は隠したい過去だった。 物心つくと、父が家族に暴力を振るっていた。自分の下にきょうだいが2人いて、家はひどく貧しかった。9歳の時、小学校で生活保護に必要な書類をもらって帰宅すると、父は怒り狂った。「火を付けたり。あまり覚えてない」。母は子ども3人を連れて逃げた。知人宅を転々とし、東京都内の警察署で保護された。2カ月後、母子は離れ、高橋さんは一時保護所に入った。 子どもたちは夜ごと、親を求め部屋の隅で膝を抱えて泣いていた。高橋さんは違った。「ここの方がまともな暮らしができる」。自分に言い聞かせ、感情を殺した。児童養護施設に移った後、母が面会に来ると熱が出た。「母は子どもを守る強い女性だと思う。でも、つらい過去を思い出させた。父母と決別し、私はもう生まれ変わりたかった」