ドナルド・キーン『日本文学史 近代・現代篇6』(中公文庫)を読む。原著は英文で、徳岡孝夫と角地幸男が訳したもの。本書は「戦後文学」「女流の復権」「三島由紀夫」の3章からなっている。 まず「戦後文学」では、『近代文学』と『新日本文学』、野間宏、椎名麟三、正統左翼の文学、マチネ・ポエティック(加藤周一、中村真一郎、福永武彦)が取り上げられる。 野間宏について、キーンは書く。 野間は恐らく、いわゆる戦後作家と言われる人々の中でもっとも重要な人物である。(中略)野間の今日に至る名声は、新しい文体の創始者としてではなくて、戦前の抑圧や戦時中の恐怖を経て、戦後初めて自由にものが言えるようになった不幸な知識人世代の代弁者としてのものだった。野間の作品を楽しむのが目的で手にとる読者を想像することは困難なことだが、もともと読者を楽しませるなどということは、間違っても野間の意図するところではなかった。 正統左