数年前に,ノーベル賞経済学者のアンガス・ディートンがこう宣言しだした――現代経済学はなにもかも間違っている.ディートンの主張はようするにどんなものかっていうと,近年,アメリカで平均寿命が減ってきた理由は資本主義経済システムでつくりだされた絶望にあるんだ,という話だ.このアイディアを展開した本や数多くの論文を彼は発表している. 実は,かくいうぼくは「絶望死」説に好意的ではある.ただ,絶望よりもストレスの方が問題なんじゃないかと思ってる――たとえば過食や薬物・アルコールの濫用みたいな行動は,〔苦しみへの〕対処機構みたいなもので,中毒になったり長期的な健康を害したりしてしまうことがあるんだろう.ただ,これはたんなる推量でしかない.実のところ,平均寿命が短くなっているのを示すだけでは,ディートンが資本主義に関して提示した壮大な説はちっとも証明されない. 骨子を言えば,ディートンが言っている説はこん
