死にゆくひとが手のひらにのせてくれたパン切れは、ひからび、かびていた。 マグダ・オランデール=ラフォンさんは、ハンガリーに生まれた。十六歳のとき、アウシュビッツ=ビルケナウに強制収容され、家族のなかでただひとり、生還した。収容されたひとびとは、毎日二列にわけられる。ガス室か、労働か。母と妹は、到着した日に殺された。 どうしてこんなことになってしまったのか。 ユダヤ人というだけで、大量虐殺を犯した母国。ささいなけんかをした家族に、あやまれなかった。そして、ひとり生き残った。 ベルギーをへてフランスに渡った彼女は、母語を失うほど、記憶を封じた。生きのびるために生きつづけ、夫と子どもを得ることで、愛とほほえみをとりもどす。そして、三十年の沈黙ののち、はじめての光を放つ。 あらわれた言葉は、静かでまぶしい。経験したおぞましい闇をはねとばし、歴史をおそれるひとびとを、自己内省の入口へと導く。 声もか