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ファンタジーと小説に関するoukastudioのブックマーク (150)

  • つばさ 第二部 - 第九章 第二節

    「宣戦布告だと?」 見慣れぬ服装の使者がもたらした一報に、謁見の間にいる面々が一気に色めき立った。 「長らく続いたノイシュタットの横暴を正し、かの地をあるべき姿、あるべき場所に戻す所存――」 要するに、開戦する旨の内容を滔々と語りつづける。敵中にひとり飛び込んできたというのに、場慣れしているのかその使者に怯んだ様子はまるでなかった。 一通り布告の中身を伝え終えると、使者は居丈高に胸を反った。 「お主たち、命が惜しくないようだな」 オトマルの一声に、他の家臣たちも同調する。 「よせ、使者に当たってもしょうがない」 「フェリクス様、これは共和国全体に対して言っておるのです」 「もういい。そなたも、とっとと帰れ。全面的に受けて立つとでも伝えておけ」 相手を射抜かんばかりの視線にさらされながらも、使者は最後まで慇懃無礼な態度を変えずに去っていった。 「さて――」 少し間を置いてから、主君たるフェリ

    つばさ 第二部 - 第九章 第二節
    oukastudio
    oukastudio 2017/09/27
    「宣戦布告だと?」  見慣れぬ服装の使者がもたらした一報に、謁見の間にいる面々が一気に色めき立った。 「長らく続いたノイシュタットの横暴を正し、かの地をあるべき姿、あるべき場所に戻す所存――」  要するに
  • つばさ 第二部 - 第九章 変転、崩壊

    こんなにも他人の態度に苛立ちを覚えることはない。 身なりだけは立派な壮年の男が神経質な表情で、たいして広くもない部屋で右往左往し、革で床を叩き、建て付けが悪い窓を罵る。 「カール」 「いったい、いつまで待たせるつもりだ。こっちは、朝からずっとここにいるというのに」 「おい」 「まったくこんなことになるなんて……共和国もノイシュタットも腹立たしい」 「落ち着け、カール」 「しかし……」 「いいから落ち着け! お前の態度が周りをいらいらさせる」 ふだんなら、こんなきついことはけっして言わない。しかし、さすがのダミアンも今は余裕がなかった。 ――まさか、ここまでとは。 まだ二人の執政官とは会えてはいない。だが、共和国に来た時点ですでに、十分すぎるほどの衝撃を受けていた。 ダスクが臨戦態勢にある。 首都ブランのすべてが物々しく、今日は平日だというのに街中は人影がまばらだ。 あちらこちらで軍の関係

    つばさ 第二部 - 第九章 変転、崩壊
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    oukastudio 2017/09/26
     こんなにも他人の態度に苛立ちを覚えることはない。  身なりだけは立派な壮年の男が神経質な表情で、たいして広くもない部屋で右往左往し、革靴で床を叩き、建て付けが悪い窓を罵る。 「カール」 「いったい、いつ
  • つばさ 第二部 - 第八章 第五節

    侯都の空は、抜けるように青く澄み渡っている。昔見た海のようにそれは深く、果てしなく広がり、空を舞うものは海鳥のごとくであった。 人間の世界でいう休日の午後は呆れるほど穏やかで、天も地も人の通りはまばらで朝からずっと静かなものだった。 ――のんきなものだ、危機が迫っているかもしれないというのに。 平和を体現するこの町は、なぜかあまり好きになれない。 シュラインシュタットにやってきたアイラことアーシェラは静かに嘆息しながら、西へ向かって飛んでいた。 新部族とやらにうまく潜り込んだものの、今のところやることがない。情報収集しようにも、意外と伝達経路は限られているようで、未だこの集団の実態は摑めないままだった。 自分でも無茶なことしているという自覚はある。だが、新部族と〝極光〟の急接近は予想を遥かに超えていた。 ――このまま放置していたら―― いろいろな思いが渾然一体となってこころをよぎる。 不安

    つばさ 第二部 - 第八章 第五節
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    oukastudio 2017/09/24
     侯都の空は、抜けるように青く澄み渡っている。昔見た海のようにそれは深く、果てしなく広がり、空を舞うものは海鳥のごとくであった。  人間の世界でいう休日の午後は呆れるほど穏やかで、天も地も人の通りはま
  • つばさ 第二部 - 第八章 第三節

    もはや初夏だというのに上空の風はどこか冷たく、春の残滓を感じさせる。前方から吹きつける空気は重く、飛ぶ速度を上げたくとも上げられないもどかしさがあった。 ――アオクに焦るなと言われたものの―― あれから何日も経ったというのに、ジャンと、そしてベアトリーチェの消息は未だ摑めないままだった。 とにかく手がかりがまるでない。はぐれ翼人の自分が地元の部族に話を聞くわけにもいかず、必然、やみくもに飛び回って捜すしかなかった。 だが、それももはや限界だ。これだけ飛んで何も得られないからには、やり方を大幅に変える必要があった。 「上からじゃ、もう駄目だ」 つぶやき、ヴァイクは人気のない辺りに向かって一気に降下した。 危険を承知で地上を行くしかない。そこには人間もいれば、敵となる同族もいるだろうが、何かあるとすれば森の中しかないだろう。 ――アオクもそう言っていたし。 確かに、この辺にはぐれ翼人の集団が隠

    つばさ 第二部 - 第八章 第三節
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    oukastudio 2017/09/19
     もはや初夏だというのに上空の風はどこか冷たく、春の残滓を感じさせる。前方から吹きつける空気は重く、飛ぶ速度を上げたくとも上げられないもどかしさがあった。  ――アオクに焦るなと言われたものの――  あ
  • つばさ 第二部 - 第八章 第二節

    「またか」 ノイシュタット侯が嘆きたくなるのも無理からぬことだった。 侯領の南方、フィズベクの地域はずっと懸案の種だったが、こうも問題がつづくとは。 「都市参事会が共和国へ寝返ったようです。民主制が彼らをそうさせたのでしょうな」 「ありがたい話だ」 オトマルの声もどこか遠く感じた。 状況は、想像よりも遥かに悪い。フィズベクでの暴動は先の戦いでいったんは鎮圧したものの、民の不満はかえってふくれ上がった。 「〝フィズベクの問題〟という言い方は、もうおかしいのでしょうな」 「裏で操っている奴らがいるかぎり、解決はしない」 フェリクスは、あえて天幕の外に目を向けた。 共和国。 ――まさか、ここまで強攻策に出てくるとは。 追いつめられているのか、それとも絶対的に勝つ自信があるのか。 「戦はすでに始まっているのだよ」 「なんともぞっとしない話ですな」 「〝百戦錬磨〟も怖じ気づいたか?」 「何をおっしゃ

    つばさ 第二部 - 第八章 第二節
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    oukastudio 2017/09/18
    「またか」  ノイシュタット侯が嘆きたくなるのも無理からぬことだった。  侯領の南方、フィズベクの地域はずっと懸案の種だったが、こうも問題がつづくとは。 「都市参事会が共和国へ寝返ったようです。民主制が彼
  • つばさ 第二部 - 第八章 序曲

    ビーレフェルトの一画にたたずむ館の空間は、不気味なほど、しん、と静まり返っていた。 いつもは黙れと言ってもしゃべりつづけるほど口達者な連中が、皆、しかつめらしい顔をして誰も発言しようとしない。 こういったときに場を取り仕切る、年長のグスタフさえもそのきっかけを失っていた。 「まさか、当に戦になるとはな……」 ダミアンが、まさに独りごちるようにして言った。 それに反応する者は少なかったが、しばらくしてようやくモーリッツが論駁した。 「まさかではない。こうなる可能性は最初からあった」 「ああ、見込みが甘かったとしか言いようがない」 二人のやり取りに、カールが机を叩いて言った。 「だ、だが、戦が起きても需要が落ちるわけじゃない。帝都騒乱のときだってそうだった」 「一時的には、特需でそうなるだろうがな。長期的に見れば確実に落ち込む、それもかなり」 「そして、帝国を拠点にする我々は大打撃を受け、他

    つばさ 第二部 - 第八章 序曲
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    oukastudio 2017/09/15
     ビーレフェルトの一画にたたずむ館の空間は、不気味なほど、しん、と静まり返っていた。  いつもは黙れと言ってもしゃべりつづけるほど口達者な連中が、皆、しかつめらしい顔をして誰も発言しようとしない。  こ
  • つばさ 第二部 - 第七章 第九節

    小さな焚き火を中心に〝極光〟の面々が、無邪気な明るい顔で浮かれている。 他の組織〝新部族〟との間にあった誤解が、ほぼ解けたからだ。自分たちは確かに、帝都騒乱では敵対し、例の奴隷事件において再び剣を交えることになった。 しかし、それもこれもすべては致し方のない理由によるものだった。中には今でも、互いに対してわだかまりがある者もいるだろうが、反目しつづけることと、たとえ表面上であっても和解することには雲泥の差があった。 ――まったく、のん気な連中だ。 焚き火の前でナーゲルが派手に転んで、みんなの笑いを買っている。近くにいるネリーも、やさしい顔でいつものように全員の中心にいた。 ――無理をしやがって。 先の戦いの折り、数人の仲間の命が失われたことにもっとも衝撃を受けたのは、他ならぬネリーだった。あれからしばらくの間ふさぎ込み、彼女の顔から笑みが消えた。 当は、まだそこから完全には立ち直っていな

    つばさ 第二部 - 第七章 第九節
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    oukastudio 2017/09/14
     小さな焚き火を中心に〝極光〟の面々が、無邪気な明るい顔で浮かれている。  他の組織〝新部族〟との間にあった誤解が、ほぼ解けたからだ。自分たちは確かに、帝都騒乱では敵対し、例の奴隷事件において再び剣を
  • つばさ 第二部 - 第七章 第七節

    霧が立ちこめる中での飛行はどこか憂で、翼にまとわりつくような水分がうっとうしくて仕方がない。 それでも、今は飛ばずにはいられなかった。迷いが迷いを呼び、悩みが悩みを深めていく。こんなときは思いきり空を舞いたかったのだが、霧が出ているうえにあいにくの曇天だった。 こころが重いせいか体も重く感じ、やる気も何も出てこない。自分の体が自分のものではないかのようで、奇妙な違和感が全身を支配していた。 ――こんなことなら、あいつらの話なんて聞かなければよかった。 ヴァイクと、そしてジャンという男と出会ってから、かえって前より困惑してしまった気がする。 その言葉に耳を傾けるべきじゃなかった、すぐに耳を塞げばよかったと、後悔ばかりが先に立つ。 しかし、それでは駄目だということも、こころの片隅でわきまえている自分もいた。 ――結局、僕は自分で自分の気持ちさえもわかっていない。 何がわからないかわからない。

    つばさ 第二部 - 第七章 第七節
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    oukastudio 2017/08/29
     霧が立ちこめる中での飛行はどこか憂鬱で、翼にまとわりつくような水分がうっとうしくて仕方がない。  それでも、今は飛ばずにはいられなかった。迷いが迷いを呼び、悩みが悩みを深めていく。こんなときは思いき
  • つばさ 第二部 - 第七章 第六節

    霧が立ちこめる中での飛行はどこか憂で、翼にまとわりつくような水分がうっとうしくて仕方がない。 それでも、今は飛ばずにはいられなかった。迷いが迷いを呼び、悩みが悩みを深めていく。こんなときは思いきり空を舞いたかったのだが、霧が出ているうえにあいにくの曇天だった。 こころが重いせいか体も重く感じ、やる気も何も出てこない。自分の体が自分のものではないかのようで、奇妙な違和感が全身を支配していた。 ――こんなことなら、あいつらの話なんて聞かなければよかった。 ヴァイクと、そしてジャンという男と出会ってから、かえって前より困惑してしまった気がする。 その言葉に耳を傾けるべきじゃなかった、すぐに耳を塞げばよかったと、後悔ばかりが先に立つ。 しかし、それでは駄目だということも、こころの片隅でわきまえている自分もいた。 ――結局、僕は自分で自分の気持ちさえもわかっていない。 何がわからないかわからない。

    つばさ 第二部 - 第七章 第六節
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    oukastudio 2017/08/25
     霧が立ちこめる中での飛行はどこか憂鬱で、翼にまとわりつくような水分がうっとうしくて仕方がない。  それでも、今は飛ばずにはいられなかった。迷いが迷いを呼び、悩みが悩みを深めていく。こんなときは思いき
  • つばさ 第二部 - 第七章 第五節

    はぁ、とややもすると色っぽい吐息が何度も響く。 ノイシュタット侯の妹姫、アーデは馬上で揺られながらまた嘆息をした。 「そんなに、これからのことが心配ですか」 「そっちのことじゃないの。お兄様よ」 ああ、そういうことか、とユーグは納得した。 「こんな時期にカセルへ行かなくてもいいのに」 「仕方がありません。かの地が今後、重要な地域になるのは間違いないのですから」 「ま、ほったらかしにしてたら帝国そのものが弱体化しちゃうし」 「そういうことです」 「でも、今じゃなくたっていいでしょう? ノイシュタットだって大変なのに」 「アーデ様のお気持ちはわかりますが、危ういんですよ、カセルも」 「ルイーゼ卿のような優秀な人材がいるのに?」 「もし世の中が、アーデ様のような人ばかりだったらいいんですけどね」 「どういう意味?」 姫が半目になった。 「揶揄したのではありません。もしアーデ様のように過去にとらわ

    つばさ 第二部 - 第七章 第五節
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    oukastudio 2017/08/24
     はぁ、とややもすると色っぽい吐息が何度も響く。  ノイシュタット侯の妹姫、アーデは馬上で揺られながらまた嘆息をした。 「そんなに、これからのことが心配ですか」 「そっちのことじゃないの。お兄様よ」  あ
  • つばさ 第二部 - 第七章 第四節

    「世の中、どんどん悪い方向へ向かっております」 赤みがかった栗色の髪が美しい女性は、書類の束を持ったまま、広いが簡素な部屋の中を行ったり来たりした――これ見よがしに。 「俺もな」 「次々に手を打たなければならないというのに、よりにもよって選帝侯のひとりは怠けてばかり。建国の士たちがこの惨状を見たら、どんなに嘆くことでしょう」 「泣きたいのはこっちだ」 「ああっ、ひどいにも程があります。まるでエプロンについた落ちてくれない染みのごとく厄介な問題」 「俺はそこまでか」 「閣下」 目を鋭くしたニーナが、ローブを翻してダメ主君に向き直った。 「いったい、誰のせいだと思っているのです。こんなに問題が山積しているというのに、相変わらずの体たらく。これ以上、状況が悪化したらどうするおつもりですか」 「そうなったらそうなったでいいじゃねえか。帝国の再編だ。あ、他の国に併合されるのも悪くないな。そうすりゃあ

    つばさ 第二部 - 第七章 第四節
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    oukastudio 2017/08/22
    「世の中、どんどん悪い方向へ向かっております」  赤みがかった栗色の髪が美しい女性は、書類の束を持ったまま、広いが簡素な部屋の中を行ったり来たりした――これ見よがしに。 「俺もな」 「次々に手を打たなけれ
  • つばさ 第二部 - 第七章 第三節

    久しぶりのカセルはどこかすべてが懐かしく、それでいてひとつひとつが新鮮だった。 以前はよく訪れていたというのに、気がつくと遠ざかってしまい、思えばもう四年以上もこの地に足を踏み入れたことはなかった。 そんなに経ったのか、という感慨が今さらながらに込み上げてくる。ノイシュタット侯を引き継いでからというもの、毎日が矢のように行き過ぎ、知らず知らずのうちに昔は当たり前のように行っていたことでさえできなくなっていった。 ――これが大人になるということなのか。 だとしたら、大人とはなんと退屈なものなのか。来したいこともできず、ただ似たような日々をくり返していく。 そうして、気がついたときにはもう、老いている。 「漫然と日々を過ごしていると、時間が経つのが早いものだな」 「どうしたのです? 急に」 椅子に座ったまま大きく伸びをしたフェリクスに、斜向かいにいるオトマルが驚いた。 「なに、退屈な毎日だと

    つばさ 第二部 - 第七章 第三節
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    oukastudio 2017/08/21
     久しぶりのカセルはどこかすべてが懐かしく、それでいてひとつひとつが新鮮だった。  以前はよく訪れていたというのに、気がつくと遠ざかってしまい、思えばもう四年以上もこの地に足を踏み入れたことはなかった
  • つばさ 第二部 - 第七章 第二節

    晩春から初夏への移り変わりは早く、日差しは確実に夏のものに近づいていた。 空から容赦なく照りつける陽光が、今は恨めしかった。ヴァイクは手をかざし、目を細めて天を仰いだ。 まだ暑いというほどではない。しかし、やや体力を奪われてしまうのが厄介だった。 翼をたたんだまま大地を歩きつづけ、前方に見えてきた円錐形の天幕へ向かった。 一歩一歩がいやに重く感じられる。 今はもう、八方塞がりの状態だ。新部族が大人数を動員してくれているにもかかわらず、ジャンとベアトリーチェの消息どころか〝虹〟の断片的な情報さえ摑めない。 話によれば、新部族はノイシュタットだけでなく帝国各地に拠点があるとのことだった。それでも、現状どうにもならない。 焦りばかりがつのっていく状況の中、最後の望みをかけて〝老師〟ことアオクを尋ねることにしたのだった。 少し緊張しながら、天幕の前に立つ。意を決して名乗ろうとすると、先に内側から声

    つばさ 第二部 - 第七章 第二節
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    oukastudio 2017/08/20
     晩春から初夏への移り変わりは早く、日差しは確実に夏のものに近づいていた。  空から容赦なく照りつける陽光が、今は恨めしかった。ヴァイクは手をかざし、目を細めて天を仰いだ。  まだ暑いというほどではない
  • つばさ 第二部 - 第七章 変化のとき

    朝の森は静かで、全体がやわらかい空気に包まれている。吹き抜ける少し冷えた風が、まだ寝ぼけたままの頭を明瞭にしてくれる。 早めに起きたジャンはひとり、木々のあいだを縫うように散歩していた。 いつの間にか、〝虹〟の面々の警戒はゆるくなって、ある程度自由に行動できるようになった。といっても、あとが怖くてとても逃げ出す勇気はない。 もっとも、ベアトリーチェがあえてここに留まるつもりのようなので、どちらにしろ離れられなかったが。 それにしても、自然の森は意外と変化が多彩だ。野生の生き物たちも目覚めたのか、ちょうど周囲が騒がしくなりはじめた。 風に揺らされた木々がまだ弱々しい陽光を散らし、小川を流れる水がそれを受けてきらめいている。 故郷の村が恋しくなることもあるが、こういうところも悪くないなあと純粋に思う。 ――あれ? ここ、どの辺だ? と焦った頃になって、近くに人の気配を感じた。捕らわれの身だとい

    つばさ 第二部 - 第七章 変化のとき
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    oukastudio 2017/08/18
     朝の森は静かで、全体がやわらかい空気に包まれている。吹き抜ける少し冷えた風が、まだ寝ぼけたままの頭を明瞭にしてくれる。  早めに起きたジャンはひとり、木々のあいだを縫うように散歩していた。  いつの間
  • つばさ 第二部 - 第六章 第六節

    「どうだった?」 開口一番、成果を問うたのは、夜の自室で待ちつづけていたアーデだった。 「駄目だ、手がかりすら見つからない。意図的に身を潜めているとしか思えない」 レベッカは翼をたたみながら、窓に腰かけた。 「まあ、この前のことがあったばかりだから、さすがに警戒してるのかもね」 「でも、これほど相手が身を隠す理由ってなんだろうね」 と、ナータン。 「決まってる、〝極光(アウローラ)〟と同じだ」 そう吐き捨てたのは、なぜか梁に足を引っかけて天上からぶら下がっているゼークだった。 「何かをしでかそうとしてるんだ、奴らは。だから、隠密裏に動いてる」 「でも、前のような大きい動きをまるで感じないんだけど」 「それだけ慎重にやってるんだろ」 「そうかなぁ」 ナータンが首をかしげるのも無理もない。〝虹〟は、以前の〝極光〟とは異質な部分が多々あった。 「そういえば、メルたちが言っていたことも気にかかるし

    つばさ 第二部 - 第六章 第六節
    oukastudio
    oukastudio 2017/08/17
    #つばさ #小説 #オリジナル小説 #ファンタジー
  • つばさ 第二部 - 第六章 第四節

    こんなにも空を飛ぶことを不快に感じたことはなかった。 厳密にはそれが嫌なのではなく今の気持ちを抱えたまま動くのが嫌なのだが、実質的には変わりなかった。 ――どこだ、どこだ。 必死になって二人の姿を捜し求めるものの、相変わらず手がかりすら見つけられない。これまでに二度、新部族のアジトへと戻ったが、誰もなんら有益な情報を得られないでいた。 焦るなと自分に言い聞かせても、ほとんど無駄だった。焦燥感は抑えようもなく、時間が経つほどにそれは苛立ちや明確な怒りへと変じていった。 ――アーベルの奴…… 自分が甘かったことを思い知らされる。 油断するべきではなかった、目を離すべきではなかった。こんな調子では、またマクシムに笑われてしまう。 それにしても、 ――ベアトリーチェ、どうしてあんなことを。 聡明な彼女ならわかったはずだ、アーベルの思惑を。注意していれば、見抜けないわけがない。 ――まさか…… 考え

    つばさ 第二部 - 第六章 第四節
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    oukastudio 2017/08/07
     こんなにも空を飛ぶことを不快に感じたことはなかった。  厳密にはそれが嫌なのではなく今の気持ちを抱えたまま動くのが嫌なのだが、実質的には変わりなかった。  ――どこだ、どこだ。  必死になって二人の姿を
  • つばさ 第二部 - 第六章 第三節

    眼下を、新緑の美しい森が行(ゆ)き過ぎていく。空は深く青く澄み渡り、今いる場所がそこに近いためか、真っ白な雲とのコントラストが鮮やかだった。 しかし、そんな目を瞠(みは)る光景とは裏腹に、ベアトリーチェの胸を罪悪感が支配していた。 ――当にこれでよかったのかしら。 誰にも言わず、誰にも相談せず、独断ですべてを行ってしまった。アーベルと外に出てから、自分はとんでもなく軽率なことをしてしまったのではないかと、いやおうもなく不安が込み上げてきた。 だが、もう後の祭りだ。こうしてここまで来てしまった以上、もはや仲間に知らせるすべもない。すべては、アーベルの胸先三寸にかかっていた。 ――でも、私は信じる。 アーベルは、けっして悪人ではない。それどころか、素直すぎるほどに素直な少年だ。他のみんなが疑っても、自分くらいは信じてあげたかった。 すでにかなりの距離を飛んでいた。途中、休憩を挟んだものの、も

    つばさ 第二部 - 第六章 第三節
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    oukastudio 2017/08/04
     眼下を、新緑の美しい森が行ゆき過ぎていく。空は深く青く澄み渡り、今いる場所がそこに近いためか、真っ白な雲とのコントラストが鮮やかだった。  しかし、そんな目を瞠みはる光景とは裏腹に、ベアトリーチェの
  • つばさ 第二部 - 第六章 第二節

    帝都リヒテンベルクの中央にある大神殿は、今日は常にないほど静まり返っていた。 というのも、神官の大半に暇を出したせいだった。あの騒乱以来、関係者はほとんど休みなしで復旧に努めてきた。 ようやくそのめどが立ったから休みを取らせたというのもあるが、裏の思惑は大神殿にいる人を減らし、これから行われる会議の内容を万が一にも聞かれないようにするためであった。 大神殿の一室、〝御使いの間〟には六人の大神官のうち四人が集(つど)っていた。それぞれが円卓の簡素な椅子に腰かけていた。 「アリーゴの奴は、まだ来ないのか」 「いえ、彼は今日来ません。疫病が流行った地方へ出ていますので」 「ご苦労なことだ。そんなことは、現場の神官に任せておけばいいものを」 鼻で笑った年配の男をライナーは睨みつけるが、人はどこ吹く風だった。 こんな人間としても最低の奴が大神官とは、とライナーは内心恫喝したい気分だったが、このフラ

    つばさ 第二部 - 第六章 第二節
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    oukastudio 2017/08/03
     帝都リヒテンベルクの中央にある大神殿は、今日は常にないほど静まり返っていた。  というのも、神官の大半に暇を出したせいだった。あの騒乱以来、関係者はほとんど休みなしで復旧に努めてきた。  ようやくその
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    oukastudio 2015/11/03
    「憂鬱なことだ」  つぶやいてから、しまった、と思う。たとえ事実そうなのだとしても、口に出しては余計につらくなるではないか。  フェリクスは簡単に身支度を整えながら、父から譲り受けた剣を手に取った。 「文
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