廊下をはさんだ実験室の一隅、二重の密閉扉の先にあるのは、ネッタイシマカの飼育室。内側を白いガーゼでくるんだプラスチックの飼育箱が200余り。「さっき話したのは、この蚊だよ」と、アクバリはある飼育箱をとりあげた。「ほら、ほかの蚊より白っぽいだろ」。ゲノム編集で表皮の色素が薄くなるよう遺伝子を組み換えたのだという。 クリスパー・キャス9活用のノウハウを磨きながら研究室がめざすのは、特定の遺伝形質が集団全体へとすばやく広がる「遺伝子ドライブ」技術の開発だ。通常はゲノム編集のハサミにつかうキャス9自身を、書き換える遺伝子に一緒に組み込もうというもので、もともと、マサチューセッツ工科大メディアラボにいるケビン・エスベルトが最初に思いついたアイデアだった。 組み込まれたキャス9は、まず交配するたびに相手方の遺伝子も自動的に書き換えようとする。「つまり、子孫はみなキャス9入りの蚊の遺伝形質をもつようにな