江戸時代は今とは違う意味で「生涯未婚」の人が多かった。雇われ商人が独立できたのは早くても30歳頃だが、江戸時代の平均寿命は30歳代。結婚したり子供を作ったりする前に、この世を去る人は少なくなかった。「死なずに生き抜くこと」が何よりも難しかったのだ――。 ※本稿は、森田健司『江戸ぐらしの内側 快適で平和に生きる知恵』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。 「長男以外の男性」は10歳で奉公に出た 江戸の庶民を代表するのは、「商・工」階級の人々である。賑やかな巨大都市に住んでいた彼らは、一体どのような人生を送ったのだろうか。これを、「呉服屋に勤める商人の男性」を例にして考えてみたい。 江戸時代の呉服屋は、大店を除き、そのほとんどが家族経営だった。店と住居が同じ建物で、家族が従業員も兼ねるという形式である。しかし、それだけでは、労働力の不足する場合が多い。そこで、家族以外の従業員も雇い入れ